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武術とは

武術とは

武術とはなんでしょうか。
私はこんなイメージで定義しています。

「目の前に包丁を構えて殺気立った男がいる。そこを切り抜けるための教え。」

包丁ではなく銃かもしれませんし、一人ではなく複数かもしれません。
守るべき人が隣にいるかもしれません。

このような場を切り抜けるために最も重要な要素が、武器を避ける体術だとは思えません。
ナイフを避ける技術を身につけたとしても相手が長い棒を持っていたら?銃を持っていたら?
素手で相手をするのではなく、周りに武器になるものがないか探すのが先ではないの?

と個別の具体的な技術で対応することの限界を感じます。
もちろん技術・具体性は必要なのですが、それよりも前に学ぶべき普遍的な本質があります。

ではいにしえの武術は現代には無用のものなのでしょうか。
私はそうは思いません。

現代における医療技術や軍事技術のように、生死に関わる技術はその時代において最先端かつ真剣なものでした。 武術も軍事技術の一部であり、しかもそれが数百年の積み重ねを経ているのです。

そこで求めた境地とはなんでしょうか。

それに一言で答えることはできません。
極限の状態で生き残るには様々な能力と幸運が必要だからです。

ですが現代にも一貫して求められている点をあえてひとつ挙げるとすれば、極限の緊張状態の中でも、「自由に動く心と身体」ということではないでしょうか。

包丁を構えた相手を目の前にして平静でいられるでしょうか。
リアルに想像もできない状況ですが、上司に「おい!」と怒られたり、大勢の前でスピーチしたりするだけでドキドキすることを考えればその緊張の度合いが推し量れます。

素手で立ち向かう前に、まずは交渉すべきです。
交渉するためには相手が何を望むのか、どういう心理状況なのか、時間を稼げば誰かが助けてくれる状況か。
冷静に判断できる心と、決断を確実に実行できる身体が必要です。

交渉にあたっては自分の心理状態が表情や口調に表れます。
ビクビクすれば相手は勢いづきます。威丈高であれば火に油を注ぐことになるでしょう。
不幸にもそんな交渉が決裂してはじめて格闘的な行動が発生します。

これら全てが「武術」です。
もっと言えばその場所に行くか行かないか、というところから武術的な思考は始まっています。
包丁から身を守る技術という狭い範囲のみで武術は語れません。

武術の達人は人のみならず場を制すのです。

古来からの武術の秘伝というのは結局のところ技ではなく、身体と心の「在り方」にあります。
達人は多くの技を知っているから達人なのではなく、心身の「在り方」が達人なのです。

相手がこうきたらこう対応する、という具体論はすぐに使えて効果的なようにみえます。
しかし習ったとおりの動きで相手がかかってくることは絶対にありません。

武術の達人は人のみならず場を制すのです。
太気拳では戦う為の具体的な技法とともに、全てのベースとなる武術的な心身、すなわち「在り方」を整えることを何よりも重視します。

太気拳では戦う為の具体的な技法とともに、全てのベースとなる武術的な心身、すなわち「在り方」を整えることを何よりも重視します。

その武術的心身を構築する方法として太気拳では立禅(站椿)という気功由来の稽古法を取り入れました。

立禅を通じ、心(意識)を最適な状態にセッティングし、同時に身体が力学的に力を発しやすいように骨格構造を整える方法を学びます。
それは身体中が弓を張った状態、とも表現されます。
爆発力を全方向に発揮することができる心身を整えるということです。

殴り方や蹴り方、という技術論ではなく、もっと根本のところです。
意識、それを身体に伝達する神経そして骨格と筋肉を整え鍛錬するのです。
発勁、合気といった武術用語を聞いたことがあるかもしれません。
そのような力の根本となるものです。

そしてこの整えた形は戦いという非日常の場面のみならず、日々の暮らしのベースを底上げする、心身の根本からの変化です。

そのような心身になるためには、正しい形によって力のルートを整えるとともに、意識の力を用いてそれを練り上げてゆかねばなりません。
このようにして養われた心身は護身と養生に貢献します。
武術は暴漢に対するもの。養生は病気に対するもの。
「敵」が異なりますが、どちらも「外的変化への対応力を高めること」です。
すなわちどんな状況でもバランスを維持できる「自由に動く心と身体」を養うことが、武術の大きな目的なのです。

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