インドで出会った不思議な坊さん

March 21st, 2025

インド北部に位置するブッダガヤは仏教における最高の聖地だ。
お釈迦さまがその地の菩提樹の下で悟りを開いたらしい。
そこにはマハーボーディ寺院が建立され、世界各地から巡礼者が訪れている。
私は、2009年頃に訪れた。
サフランオレンジ色の袈裟はタイあたりの僧侶かな。
道教風というのか、中国の時代劇のような服の人もいる。
墨色の僧衣をまとった日本人僧侶もいる。
私のような半袖短パンサングラスの旅行者もとがめられることはない。

日本の神社やヨーロッパの教会のような、凛とした、少し涼しくなるような、引き締まるような、そんな空気は感じなかった。
ただ灼熱の太陽に照らされて、暑くて暑くてどうでも良くなったような、脱力した開放感。
誰でも何でも受け入れるような、おおらかでゆるい空気だった。
聖地、という言葉から感じる厳かなイメージとはすこし違っていた。

そんなマハーボーディ寺院を散策していたときのこと。
後ろからいきなり腕をつかまれた。
インドだから普通ならひったくりか、と思って身構えるものだが、寺院のゆるい空気のせいか、なんともなくその相手を見た。
するとそこには、赤い袈裟をまとったお坊さん。
タイかベトナムか、東南アジアの僧侶だろう。
カタコトの英語で、お前どこから来た?とニコニコしながらいきなりそんな事を聞いてきた。
そしておもむろに私の肩に腕を回してピッタリ横にくっついて歩くのだ。
「初対面にどんな距離感やねん!」と思いつつも、歩きつつ問われるがままにこたえる。
話すうちに、なんとなくこっちもおかしくて笑っていた。
その坊さんはニコニコして、30代くらいなのに無邪気な子供みたいで。
10秒くらいで、このオッサン好き、ってなっていた。
英語はカタコトで意味もよくわからないけど、なんかおもろいな、と横並びで歩いていたら、その坊さんが何をみつけたのか突然走りだした。
すると前を歩いていた白人男性の、長いドレッドヘアをいきなりグイ!とひっぱったのだ。
その白人男性が驚いたように振り返ったら、また大声で何かを話しだし、3秒ほどで白人男性は満面の笑顔。
ああいうのを天衣無縫っていうのかな。
何あの坊さん、って思った。

そんな不思議なお坊さんにフラれてからもフラフラと寺院を散策。
広めのスペースで座って休む人達がいた。
子供達はワイワイと騒いでいる。
その中でひとり、壁にもたれて座るお坊さんがいた。
サフランオレンジの僧衣に浅黒い顔。
ただそのままに座っていた。
その周りでは子供が遊んでいる。
だけど、そのひとはただ座っていた。
すると遊んでいた子供達が、その人の周りに座った。
遊び疲れたのかな。
そのひとは、子供たちにかまわない。
目も動かさない。
ただ座っている。
すると子供たちが坊さんを囲ってその周りでコロン、と寝はじめたのだ。
さっきまで大声をだして走り回っていた子供が、いきなりおとなしく寝てしまった。
そのひとはただ座っている。
実は少し離れてそれをみていた私も、静かな気持ちになっていた。
ああいうのを無為っていうのかな。
何この坊さん、って思った。

二人のお坊さんは両極ではあるけれど、何か同じようなものを感じた。
「まきこむ」「つつみこむ」
そんな周囲に波及する何かだ。
それはきっと「我」がないからなんだろう。
我と彼を隔てるものがないから、周りも巻き込まれてしまう。

写真を整理していたら、その二人のお坊さんを撮っていたので思いだした出来事です。

「心に残った旅先は?」
迷わずインドとこたえます。

坊さん、天衣無縫ver.

坊さん、天衣無縫ver.

坊さん、無為ver.

坊さん、無為ver.