気の発露

February 24th, 2025

先輩が組手をしていたとき。
相手は身体が大きく力も強く、格上といえる相手だった。

先輩が顔面を殴られた。
それなのに相手が「イタッ!!」と声をあげた。
殴った掌が血だらけだった。
先輩が、殴られた瞬間に指を食いちぎったのだ。

「あー!!ごめんなさい!!」
我にかえった先輩が慌てて相手に駆け寄った。
普段は理知的な歯科医師、優しい方なのでわざとではないのがわかる。
殴られた瞬間、勝手にそうなったのだ。

殴られたらその腕を噛む、なんて技は太気拳にはない。
もちろん稽古したこともない。

武道では型を繰り返し、無意識でその動きができるように繰り返す。
武道に限らず、他の芸事や職人技、日々の仕事もそうだろう。
すると非常時でも、何も考えずとも、その動きが自然と出るようになる。

あの噛みつきは、そんな「意図的な動きの無意識化」ではなかった。
人から与えられた、正しいとされる所作、合理的な動き、そんなものを超えていた。
本能の発露、気のほとばしり、とでもいうべきもの、それは美しくさえあった。

ジャンピングキャッチ!