こだわりのない心身

January 10th, 2025

「圧力をかけているんだけれど、いつでも後ろに引ける状態を作っているという。あれはすごいよ。」

総合格闘技で飛ぶ鳥を落とす勢いだった朝倉未来選手が、ボクシング元世界王者、フロイド・メイウェザー選手と戦ったあとの言葉です。

「相手に圧力をかけつつ、いつでも後ろに引ける状態」こそ、立禅で養っている力です。

組手に際して攻撃を避けることに専念しているような体勢・心構えでは相手はそれを感じ、攻められることがないのでとても楽になります。
逆に攻撃に専念して前へ前へと出てくる相手に対しては、一旦間合いを切ったりフェイントを使ったりすることで、スキを見つけることが容易になります。

立禅で養っているのは心も身体も、前にも後ろにも右にも左にも動ける状態です。「こだわりのない心身」とも言えます。
太気拳では全身に弓を張ったように、バネを引いたように、というイメージを僅かに感じつつ静かに立ち、これを養います。
デコピンをするとき、親指で人差し指をグッと抑えることで人差し指に勢いがつきます。全身がこのようにバネで抑えられているような力を養っています。これは筋力というよりも神経や意識に密接に関連しています。筋力の養成であれば、実際にバネをひくトレーニングの方が有効でしょう。

この立禅で養った力を揺(ゆり)、練(ねり)という稽古で動きに変換していきますが、その際にも水の中で動くように、バネをひくように、と抵抗感を切らない動きを続けることが太気拳の特徴です。

いつでも力強く前後左右に動ける心身。
突き、蹴りといった技以前の、ベースとなる力です。