100kmウォーク24時間@札幌

November 21st, 2023

11月上旬、練習なしの100kmウォークをなんとか完遂しました。
要した時間は23時間58分、友人のローリーと二人での挑戦でした。

ルートはこんな感じです。
中央区の自宅から真駒内公園に向かい、そこから豊平川沿いを北上。
石狩川に合流後も河口に向かい石狩湾に面した、はまなすの丘公園の最先端が折り返し地点(約50km)、そこから対岸を同ルートで自宅へ。
朝5時にスタートし、翌朝5時前にゴールしました。

1,ルート選定のポイント
レースなどにエントリーして歩く場合は考える必要はありませんが、自分で歩く場合にはルート設定が難易度に大きく影響します。
私は2013年にも一度、別の友人と二人で100kmを完歩しているのですが、そのときは大通り公園の時計台前発、支笏湖までの周回ルートでした。
支笏湖ルートはアップダウンが多く、交通量が少ないとはいえ車道の横を歩きます。車道の横を歩くのは空気が悪く、安全にも気を配らなければいけないので、できるだけ避けたほうがよいかもしれません。また信号が多い場合は望まないストップが増え、ペースに乗りづらいです。
また最近は札幌近郊でもヒグマが頻繁に出没しており、深夜誰もいない支笏湖周辺をトボトボ歩くのはあまり気持ちいいものではありませんので、今回は、
・車道をできるだけ通らない
・ヒグマ遭遇の心配が少ない道
・できるだけアップダウンの少ない道
・ギブアップしたときにコンビニ等が近い
という選択基準を採用しました。
その結果、札幌市内を流れる豊平川から石狩川河口までというルートに決定。できれば景観や達成感の観点から往復ではなく周回コースとしたいところでしたが、後半は暗闇ですのでほとんど関係ありませんでした。
特にアップダウンの有無は難易度に大きく影響します。

事前のトレーニング無しだと、とにかく脚が痛くなります。
筋肉痛とマメのダブルパンチです。
今回は25kmほどではやくも筋肉痛、折り返しの50km手前でマメ。
半分も行かず負傷し先行きが思いやられました。
今回は坂がないコースなので心臓や肺への負担はほとんどありませんでしたが、私の足腰は100kmの歩行には耐えられない軟弱さでした。
とはいえ、武道の道場を運営する身であり、普段から武道の稽古は続けています。
また週に3回は30分程度の山歩きをしていましたが、その程度では全く足りません。やはり専用のトレーニングをある程度は積む必要がありそうです。
戦争においては戦場も悲惨なものですが、戦場までの行軍がまた地獄だったそうです。武道をやっていると戦える身体、というのは意識せざるをえませんが、新たに「ひたすらに歩ける体」という目標も定めました。

2,役に立った持ち物
・トレッキングポール
使わない時にリュックに収納、というのは面倒なので両手に持ちっぱなし、という運用になると思います。
常時使っているわけではなく、不要なときは邪魔です。
元気なうちは脚を温存するための補助的なもので、上半身、腕で前に押される力が働きスピードに乗ることができます。四つ足で歩行している感じとでもいえばよいでしょうか。
ですが真価が発揮されるのは脚が壊れてからです。まさに杖として体重を支え分散してくれるので非常に助かりました。相方のローリーは使っていなかったので脚を痛めてからはより辛かったと思います。
新たにポールを購入するのであればできるだけ軽量なものがおすすめです。

・痛み止め、カフェイン
痛み止めがあると後半戦がかなり楽になります。
カフェインは錠剤を持っていきました。
100kmを歩くという運動による疲労に加え徹夜という疲労も加わります。
歩いていると眠気という感じではなくやる気の減退、なんとも言えない疲労感、倦怠感に襲われますがカフェインを飲むと一時的に少しだけ回復します。
実際には回復、というより元気の前借りなんでしょうが、とにかく100kmを乗り切る、という目の前の課題のために翌日の元気も全て使い切りました。
痛み止めもカフェインも、重いものではないので相方にあげたり多めに使ったりすることも有り得るので想定の倍量くらい持っておくとよいと思います。どちらも使用後何時間あけて使用すること、とありましたのでそれを守って準備しましたが、もっと短い間隔で飲むほうが楽になるのかも。

・スマホアプリStrava
移動エリア、距離、時間、平均速度などをGPSと連動して記録するアプリ。
自分でコース設定する場合、100kmちょうどのコースを作るのはなかなか難しいです。
せっかくだから95kmとかではなくきちんと100km歩きたい。だけど105kmも歩きたくない。
5kmって車だと数分ですが、歩くと1時間ですから。
歩いているとき、あと10km、と距離で考えるとたいしたことがないように思います。
いつも車移動なので、10kmなんてそれこそ数分の感覚です。
ですが時間で考えると10kmって2時間以上の歩行。
だからできるだけ100kmぴったり歩きたい。

歩く前にGoogleマップで大体のコースを作りましたが、正確に100kmのコースを設定することは難しいです。最終的には90km歩いたあたりで逆算してゴールまで100kmになる地点からコースに変更することで過不足なく100kmを歩くことができました。

このStravaというアプリは歩いた距離、ルート、1kmを何分で歩いたか、などをリアルタイムに記録してくれます。

Stravaは相方のスマホアプリでしたのでひょっとしたら英語版のみですが、似たような機能のアプリは他にもあると思います。
使用の際にはGPS機能を使っているからかバッテリー消費が多くなりますので充電用バッテリーもお忘れなく。(私のスマホはアプリを使わなかったので充電不要でした)

・食料
100kmも歩くからしっかりエネルギーを摂らなくては、と色々準備しましたが途中からは胃腸に血が巡らないのか、消化できず水分でお腹がチャポンチャポンした感じになりました。
エネルギーを補給したいけど何も食べたくない、飲みたくない、って感じです。
後半は軽い吐き気も続き、景色を愛でる余裕はありませんでした。
ドライフルーツ(イチジク)、バナナ、ピュレグミ、ウィダーインゼリーあたりが美味しく摂取できました。塩分も欲しいのでビーフジャーキーを用意していましたが、消化に悪そうであまり食べず。おにぎりは最高でした。
塩気のある食べやすい食料を今後の為に選定しなければ。
飲み物は100kmトータルで3.5Lほど。今回は最高気温が10度程度だったのでこの量でしたが、夏場だと大幅に増えると思われます。

3,完歩するコツ
・長時間休まない
休むと脚が痛くて動けなくなります。いちど座ると痛みで立ち上がるのも一苦労、そこから歩き出すと休憩前よりも痛みがひどくなるんです。
しばらく我慢して歩いていると普通の痛さになりますが、ペースが戻るまで10分ほどかかるので、疲れても長時間の休みは取らない、立ったままリュックだけ下ろしてストレッチ、という方が結果的に楽でした。
10年前に歩いた時はそれを知らず、結構長時間の休みを取り、何度も動けなくなって相方に迷惑をかけてしまいました。

・靴、靴、靴
前回歩いた時はニューバランスの576という靴でしたが、足裏が何万回もアスファルトに打ち付けられ、打撲傷のような痛みとの戦いとなりました。
そのため今回はとにかくクッション性を重視し、HOKAのKAHA2 LOW GTXを用意しました。
普段山歩きをすることと100km歩行当日が雨予報だった為、ゴアテックスの靴にしましたが、晴天で100kmを歩くだけならもっと軽いタイプがいいと思います。
このクッションが功を奏したのか、足裏の痛みが今回はありませんでした。

自動車でも足回り(サスペンションより下)の軽量化は上の軽量化よりも10倍効果がある、と言います。靴についても軽量化は同様の効果があるように感じました。
ちなみに格闘技でもスピードのある選手は腕や脚がそれほど太くない印象があります。野生動物も膝から下は細いですね。
ポパイのような二の腕が太く重い構造は力学的に不利なんです。

履き慣れた靴、というのが大前提ですがどんなに慣れた靴でも100kmも歩けば靴ずれが起こる可能性は大です。過信せず厚めの靴下、バンドエイドなどをお忘れなく。

ところでHOKAといえば厚底シューズの代名詞ですが、私は厚底否定派です。
普段の山登りはルナサンダルというソールが1cmもないようないわゆるベアフットサンダルを使用しています。これで歩いているとカカトで着地すると衝撃が脳天まで響くので自然とつま先着地になり、歩き方が変わってきます。これを体感すると靴をはかない時代の人間は歩行時も踵からは着地していなかったのではないかと思われます。
歩き方を考えさせてくれるツールとしては足半(あしなか)もおすすめです。
わらじの後ろ半分を切ってカカト部分がないような履き物ですが、これをしばらく履いたあと素足になると、地面に足裏が吸い付くような感覚になります。
自然な動き、歩き方はどのようなものか。
少なくとも足裏にフワフワのクッションをつけて探求することは無理があります。

とかいいつつ、トレーニング不足の私が長距離を歩くには文明の利器を大いに活用せねば、と厚底シューズに頼った次第です。
いずれを選ぶにせよ100km歩くのに最も重要なツールは靴。これは間違いありません。

中間地点の石狩川河口

4,学んだこと、感じたこと
・二人でないときっと完歩できなかった
10年前に歩いた時にも痛感しましたが、一人では私は完歩することはできないと思います。
辛い時に愚痴を言いながら、お互いをペースメーカーにしながら、いろんなことを話しながら、歩く時間はかけがえのないものでした。
一方、二人以上だと休憩のタイミングなどペースを合わせるのが難しくなるので、体力レベルの近い二人組がベストではないでしょうか。
レースの場合は何十人もエントリーしているでしょうから、一緒に歩く人がいなくてもまた違うのかもしれません。

・目標設定の大切さ、効果
前回100kmを歩いたときは27時間ほどかかったと記憶しています。これは私が休みすぎた為で、一緒に歩いた友人に大いに迷惑をかけてしまいました。辛抱強く私のペースに合わせてくれた友人には感謝しかありません。
今回はそのリベンジで24時間以内に歩く、というのが目標でした。
終わってみれば23時間58分で完歩。歩いている間はペース配分を一切していません。最終盤に間に合うようにラストスパートもしていません。むしろ最後は這うようなペースでした。それでも終わってみるとこの時間。
23時間でも25時間でも完歩すれば満足したはずですが、ほぼちょうど24時間、というタイムでフィニッシュし目標設定の効果を身をもって経験しました。
もちろん歩き続けるという意思は持ち続けましたが、目標を達成してやろう、という努力は一切していません。それでも達成できるのですから、目標設定はカーナビに目的地を設定するような効果がありますね。

・痛みを経験する、のではない。ズキズキ、があるだけ。
暗闇の中、足元だけを見て歩き続けていると一歩ごとにズキ、ズキ、という感覚があります。
事実はただ「ズキズキ」だけであり、それを経験する自分はありません。
「私」が「痛み」を「経験」している、というのは事実の説明であって事実そのものではない、ということです。
例えば「★」は「星、ほし、くろぼし」ではありません。
「★」は「★」です。といっても最初の「★」と次の「★」は全くの別物ですが。
立禅、坐禅を通して経験することが100kmウォークの際にもありました。
まさに動禅です。

感覚を観察する、といった瞑想法もありますがそもそも観察する自分というのがない、ということがハッキリすること、言い換えれば無我・無常が明確になることが武道修行の根幹だというのが武禅会の方針です。
そしてそれが個別の技術を追求する武術と根源を求める武道の分かれ目とも考えています。
武道を修行すると肉体ばかりでなく精神的に強くなるというイメージがあります。これは根性がついて我慢強くなるということではなく、苦痛を受ける自分というものがないんだ、ということをハッキリさせることによる意識の変容(事実に対する認識)が根源になければただの根性論になってしまいます。

歩いた翌日は下半身の激痛でほとんど動くことができず、トイレにも杖をついていき便座にもドシン、と崩れ落ちるように座ることしかできませんでした。そのくらいエネルギーを出し切リましたが、数日後には身体中から濁ったエネルギーを抜ききって綺麗なエネルギーを入れたかのように、心も体もスッキリしました。
共に歩いてくれたローリー、応援してくれた方々、元気な身体を与えてくれた親に感謝です。

誰にでもおすすめできるものではありませんが、興味がある方はぜひ100kmウォーク、やってみてください。